事案の勝ち筋・負け筋

 

弁護士のキャリア


弁護士は,王道ルートとして,司法試験合格後,司法修習を経た後に,日本弁護士連合会及び拠点となる地域を管轄する各県の弁護士会に登録することで,晴れて弁護士を名乗り,活動できます。

この司法修習には,「期」が存在し,弁護士業界では,この「期」で弁護士のキャリアを認識することがあります。「期」の数字が少ないほど,古くに司法修習を修了していることになります。

本コラム執筆中である2020年10月時点では,第73期司法修習生が次の弁護士予備軍であり,順調にいけば,2020年12月に弁護士登録が可能となります。
ただし,修習「期」をキャリアとして認識するのは業界内の話で,一般の方が気にするキャリアとは,弁護士としての実績ではないでしょうか。

司法修習を修了すると,裁判官や検事になる方もいます。その方々が,後に弁護士登録することもありますが,この場合,弁護士1年目であるにもかかわらず,「期」が古く,年齢を重ねている場合が多いことから,ベテランの弁護士だと誤認する場合があります。

また,弁護士登録できる条件は満たしたものの,何らかの理由ですぐには登録せず,後に弁護士登録した場合も,同じように誤認する場合があります。

更に,弁護士を長くやっていても,所属事務所の特色や取扱事件の種別によって,やったことのない事案や手続きがあることは普通のことで,むしろ,全ての事案や手続きを,それなりの数やったことのある弁護士を探すことは困難でしょう。

弁護士歴が長い=何でもできる,強い,若手に劣ることはないと思いがちですが,必ずしもそうとは言えません。弁護士を選ぶ基準について,弁護士歴が長い,期が古い,歳を重ねているなどの理由だけで判断せず,自身が求めること,自身に合う人柄などを踏まえ,総合的な判断をするようにしましょう。

検察官上がりの弁護士の強み・弱みとは


検察官から弁護士になった方のことを「ヤメ検」といいます。
検察官は公務員であり,定年退職後にまだ働けるからと弁護士登録する方もいれば,途中退職して弁護士登録する方もいます。

ヤメ検の強みは,何といっても刑事事件です。

とにかく,検察官はその職種上,ひたすら刑事事件に携わってきていますので,刑事事件に関しては膨大な知識と経験値を有しています。
ただし,それは検察側の動きや考え方などを知り尽くしているというだけで,日本の司法における有罪率からすると,ヤメ検だからといって簡単に無罪を勝ち取れるものではありません。

弱みとしては,多くの法律事務所では刑事事件以外の事件割合が高く,ヤメ検の場合,民事事件や家事事件についての経験がない方がほとんどで,司法修習が終わってすぐに弁護士になった1年目と比較して,同じ1年目の場合,知識・実務共に優れている方は少ないのではないでしょうか。

しかし,年齢に応じて多くの人生経験を積み上げてこられている分,若手に比べて人間力が高い方が多く,また,公務員という性質もあってか,真面目で勤勉な方が多いように感じます。その努力により,短期間で能力が優秀といえる域に達した弁護士は沢山いることでしょう。

大事なのは,「ヤメ検」という肩書きに囚われずに判断することです。

裁判官上がりの弁護士の強み・弱みとは


裁判官から弁護士になった方のことを「ヤメ判」といいます。
裁判官も検察官同様公務員であり,同じような理由で弁護士登録しています。
ヤメ判は,ヤメ検に比べ,即戦力になることが多いです。

弁護士が相談を受ける場合,その事案の結末を想定して話をしますが,その際,裁判になった場合も想定します。そのため,元裁判官であれば,より司法の判断についての予測が立てやすく,どんな証拠があれば採用されやすいなどの目線も,元裁判官ならではの強みがあります。

また,裁判官として多くの弁護士を見てきています。弁護士転身後,そのような経験も活きるのではないでしょうか。

弱みとしては,元裁判官だからといえる特徴はないように思いますが,強いて言うならば,裁判官になった後の流れとして,民事,家事,刑事など,一通りの事件を担当し,その後は同じ種別の事件(民事ならずっと民事)を担当するのが一般的です。そのため,定年まで働いた場合,担当外だった事件が相当年数振りということはあり得ます。

しかし,ヤメ検同様真面目で勤勉な方が多いことから,即戦力で,優秀な弁護士は沢山いることでしょう。

事案の勝ち筋・負け筋


事案の勝ち筋・負け筋には,大きく2つの要素があります。

1つは,請求する権利そのものが認められるかどうかです。もう1つは,請求に対する評価の問題です。

まずは,請求する権利そのものが認められるかどうかを見ていきます。

何かを請求する場合,その請求に対する法的根拠が必要不可欠です。また,それを裏付ける証拠がなければ,請求する権利そのものが認められない場合があります(「弁護士に対する相談・依頼のハードル」でも触れていますので,そちらも参考にしてください。)。

極端に言うと,この2点が揃っていれば,自らが法廷に立ち,相手方には大手事務所に所属する大ベテランの弁護士がついていたとしても,裁判で負けることはありません。

しかし,この2点が揃っているといえるのかを判断することが,本当に難しいのです。

請求する権利そのものが認められなければ話はそこで終わってしまうので,その見極めが最も重要なことであるといえます。

次に,請求に対する評価の問題です。この評価とは,請求する中身のことです。

例えば,Aさんが,Bさんから殴られてケガを負ったことについて,Bさんに慰謝料100万円を請求するとした場合,法的根拠と証拠が揃っていれば,慰謝料を支払えという請求自体は認められますが,それが一体いくらが妥当であるのかは法律には定められておらず,暴行の態様,ケガの程度,過去の裁判例など,様々な要素を基に額が決まります。

100万円が認められると判断できれば勝ち筋といえますが,20万円が妥当だと判断する場合,請求自体は認められる勝ち筋の事案なのに,素直に勝ち筋の事案だと思えるのかと問われれば,受け入れ難い方もおられるでしょう。

評価に関しては,価値観によるものもあるため,勝ち筋・負け筋を単純に語ることは難しく,どのような事案で,どのような請求の権利があり,どのような請求が可能で,どのような認定がされるのかを見極めたうえで,それを勝ち筋と感じるのか,負け筋だと感じるのかが大事なのではないでしょうか。

この辺りの話は,「依頼人が思う勝ち負けと弁護士が思う勝ち負け」にも詳しく書いていますので,そちらも参考にしてください。

弁護士が相談を受ける場合,基本的に,事案概要を聴いて,要望を聴いて,それを叶えるための証拠を確認して,目的を達成できるかを判断しますが,多くの事案は,この時点で勝ち筋・負け筋を固めてアドバイスします。

それがひっくり返る(勝ち筋と言われたので依頼したが,結果,負け筋になってしまった)場合としては,大別すると,弁護士が聴いた話と事実が違った(弁護士が正しく聴き取ることができなかった,相談者・依頼人が嘘をついていた又は事実と違う認識(誤解・誤認)をしていた),証拠が不十分だった(弁護士の見極めが甘かった)ことが想定されますので,正しい勝ち筋・負け筋を見極めるためにも,思い込みや感情に任せた説明をするのではなく,主観的でも,客観的でもいいので,可能な限り正確な情報を伝えるように意識すると良いでしょう。

また,話をするのが苦手だという方は,上手に話を引き出してくれる弁護士かどうかを意識し,相談終了後に,話したいことが話せたと思えば,その後の長い付き合いにおいても話が食い違う心配は少なくなるでしょうし,逆に,うまく話せなかったと思えば,別の弁護士にも相談してみることをお勧めします。

注意すべきは,「不安は残るけど,弁護士に頼んだからいいか。」と,そのまま丸投げしてしまうことです。

先に記載したとおり,勝ち筋・負け筋の感じ方は人によって変わります。

後に弁護士との間でトラブルに発展しないよう,しっかり話し合い,納得のうえで依頼するか否かを決めましょう。

まとめ


自身で戦う場合は,これまでの説明を意識するだけで,勝ち筋・負け筋の見極めを見誤る確率が下がりますので,ぜひ実践してください。

弁護士の能力不足による見極め違いは,相談者・依頼人に落ち度はないですが,信頼関係が構築されていないことが原因による場合は,双方に落ち度があるといえます。何より,結果,誰がダメージを負うかというと相談者・依頼人本人ですので,弁護士にはありのままを話しましょう。

弁護士の能力も大事ですが,弁護士になれるだけの能力を持っている人は,基本的に優秀です。しかし,人間力は,能力とは別の話になります。

私は,信頼関係が築けると思える,自身に合った人間性・キャラクター性を持っている弁護士かを見極めることこそ,勝ち筋・負け筋を見極めるための大事な要素だと思っています。

弁護士を何年やっている,色々な会社の顧問をやっている,大手事務所に在籍しているなどの単なる肩書きや,HPがしっかりしている,HPを見ると色々やってそう,一等地に事務所を構えているなどのマーケティング戦略にばかり影響され,強い弁護士,勝てる弁護士と期待することなく,直接弁護士と向き合い,きちんと話をしてくれる・聴いてくれる弁護士かどうか,人として信頼できると思えるかを見極めて,依頼するかどうかを決断するようにしましょう。