弁護士間の力関係 |
弁護士業界に上下関係はある? |
世にある様々な業界団体において,キャリアを重視することもあれば,年齢を重視することもあります。さて,弁護士業界ではどうでしょう。
日本では,目上の人を敬うという教育をします。多くの日本人が,目上の人に対しては敬語や丁寧語を使用します。文化と呼んでもいいのではないでしょうか。
更に,社会に出ると,同業他社や取引先との接し方では,年齢やキャリアに関係なく,親しい間柄でもない限り,双方敬語や丁寧語を使用すると思います。
実は,弁護士業界でも全く同じで,一般社会と比較して,特に変な風習はありません。
同じ組織の先輩後輩・上司部下,地元や学生時代の先輩後輩,親子ほど歳の離れている関係などでもない限り,弁護士業界だからという上下関係はなく,一般社会と同じような関係性を築いているのです。
弁護士間での顧客の取り合い |
弁護士に対する世間一般的なイメージの中には,弁護士は高圧的,怖い,偉そうなどのネガティブなイメージが付きまとっています。
一昔前は,いわゆる殿さま商売ができた業種であり,弁護士を名乗れば勝手に顧客がやってくる時代があったため,それが普通だと勘違いして,イメージ通りの人間性を持った弁護士もいたことでしょう。
しかし,今は弁護士(法律事務所)でも廃業する時代です。
原因の1つに,近年,日本の裁判件数は横ばいで推移しているのに対し,弁護士数は年々増加しているのですが,その結果,一般企業同様に,マーケティングを学び,専門業者を入れ,広告宣伝費をかけて集客し,利益を追い求める法律事務所が増えたことにあります。
弁護士同士で顧客の取り合いをしなければ,生き残れない弁護士が増えているのです。
弁護士業界の現状からも分かるように,上下関係などにより自身の依頼人が不利になるような活動を行う弁護士はおらず,むしろ,相手が誰であり,最高の結果をもたらすことで,自身の価値を上げることに力を入れている弁護士が一般的なのです。
対立する依頼人の弁護士同士が同じ地域だと影響ある? |
過去,「同じ地域の弁護士同士は,なぁなぁで仕事をする。」や「上下関係があるから若手には依頼できない。」といった話をよく耳にしました。
結論から言うと,そんなことはなく,悪い影響もありません。
そもそも同じ地域に限らず,弁護士同士が顔見知りである可能性としては,同じ弁護士会所属,同じ地元,同じ出身校,共通の知人などがあります。
弁護士登録後は,同じ弁護士会所属の弁護士として,弁護士会関連の仕事や委員会などで関与することになります。その中で,プライベートで交流を持つようになる弁護士も多いでしょう。
ここまで弁護士の関係性などに触れましたが,相手方の弁護士がどのような立場(知人,友人,先輩,後輩,恩師,弟子など)であれ,仕事のうえでは,依頼人の不利益になるような活動は行いません。
当然,相手方の弁護士から,自らの立場の優位性を持ち出すようなことも行いません。
そんな活動をしていたら,双方の弁護士とも懲戒処分を受ける恐れがあるほど,弁護士としてはプロ意識のない,許されない行動なのです。
そのため,どんな間柄であっても,依頼を受けた事案については全力を尽くします。
結論で,あえて「悪い影響も」と記載したのは,依頼人にとって良い影響がある場合はあるからです。
例えば,知らない弁護士,気心知れない弁護士だと,探り探り様子を見ながら戦うことになり,解決までに時間がかかることや,お互いにとっての落としどころ(双方の依頼人にとっていい形)を模索する必要がありますが,知っている弁護士の場合,無駄な腹の探り合いに時間や労力を割くことなく,早期解決のためにスムーズな交渉をすることが可能になります。
また,依頼人同士が譲らずに裁判になった場合,勝っても負けても,どちらもダメージを負うような事案があります。この場合,双方の落としどころを模索しやすく,双方の弁護士が自身の依頼人を説得することで,依頼人の最大限の利益確保(「依頼人が思う勝ち負けと弁護士が思う勝ち負け」にも詳しく書いていますので,ご参考ください。)を実現することができる場合もあるのです。
まとめ |
弁護士間の関係性が,依頼人に影響を及ぼすという考えに至る理由の1つには,弁護士に対する信用・信頼がないということがあるのでしょう。
また,信用・信頼がない理由には,過去弁護士に依頼して嫌な思いをした,ニュースで弁護士の不祥事を見た,ドラマの影響などがあるのでしょう。
しかし,弁護士という職業に対して信用・信頼がない限り,違う地域の弁護士に依頼しようが,ベテランの弁護士に依頼しようが,良い関係の構築は難しいでしょうし,そのような状態では,依頼人と弁護士双方に良いことはありません。
弁護士としての矜持を忘れ,依頼人の利益より自身の利益を優先する仕事の仕方をする弁護士もいるのでしょうが,結局モラルの問題やプロ意識の問題で,弁護士に限らず,変な人や,悪いことをする人はいるものです。
また,そんな弁護士は,全体の一握りにも満たないほど少数派です。
難しい試験を突破してきた凄い人ではあっても,当然,相談者・依頼人より偉い,優れているというわけではありません。
弁護士を特別な存在だと勝手に持ちあげず,卑屈になる必要もないのです。
弁護士は一職業です。変な偏見に惑わされず,弁護士個人をよく見て接すれば,弁護士との距離も縮まりやすく,良い関係が構築されると思いますし,弁護士自身も,もっと気軽に関わりたい,関わってほしいと思っていますよ。