弁護士が嫌がる相談者・依頼人や受任したくないなと思う事案

 

弁護士も人間


弁護士に相談する事案は,その多くがトラブルの渦中にあります。

相談の中には,相談者・依頼人にも問題があることも少なくありませんし,場合によって,弁護士に対して明確な敵意を向ける相談者・依頼人もいます。

弁護士は,その職務性質上,大抵のことであれば仕事だと割り切って対応しますが,クレーマーをはじめとした,モラルや一般常識に欠ける言動を繰り返すなど,一般社会において敬遠される人間性の持ち主については,弁護士であっても敬遠します。

「弁護士なのだから」という考えは持たず,あくまで人と人との関係性を大事にして弁護士との信頼関係を築かなければ,結果として,相談や依頼をした自身が損をすることになり兼ねません。

弁護士は特別な存在ではなく,皆さんと同じ人間であることを忘れないでください。

弁護士は一職業


弁護士に高尚なイメージを持たれている方はとても多く,「弁護士とはこうあるべき」,「弁護士はこんな人」,「弁護士だから何でもできる」と過度な期待を持ってしまい,現実とのギャップにガッカリされることがあります。

弁護士は一職業です。

政治家のような「国や国民のために」,警察官のような「人々の平和のために」などの高尚な大義名分をもって取り組んでいる弁護士は,いないのではないかとすら思っています。

では,何に取り組んでいるのか。それは,依頼人の利益のためです。

勿論,悪とされる依頼は受けない,弱者を守るという理念を持たれている弁護士はいます。

しかし,ここでいう理念は,いわゆる経営方針のことであり,逆に言うと,暴力団員も1人の人間であり人権があるため依頼を受ける,そもそも法律に照らして正当か否かで判断するので強者や弱者という概念がないという弁護士もいます。

先に記載したとおり,不特定多数のために活動するのではなく,弁護士としてこのような活動をするぞという理念に基づいて営業活動をしているものであり,それはまさに経営方針ともいえるものなのです。

例えば出会い頭の交通事故の相談があったとします。この場合,交通事故の当事者は双方加害者であり,被害者となります。そうした場合,正義・悪,強者・弱者の概念がなくなり,どちらかの代理人弁護士になった場合,相手方となった方に対し,少しでも依頼人の過失を減らす弁護活動を行い(相手の方が悪いと主張することになります),依頼人の最大限の利益確保に努めることが一般的です。

他には,離婚に伴う親権争いの場合,虐待や子の生活が脅かされる状況が想定されなくとも,依頼人のために相手方から子を取り上げる弁護活動を行いますが(相手と比較して自分の方が親として相応しいと主張することになります),これにも正義・悪,強者・弱者の概念はありません。

更に,5万円の貸金を回収したいが,年老いていて自分での手続きが困難,しかし生活には困窮しているので回収を諦められないという相談が入った場合,経営の観点からお断りする,または諦めるよう促す(示談交渉だと着手金10万円かかるので,依頼するメリットがないですよなどと説明する)でしょう。

中には,無償で対応する弁護士もいるでしょうが,それは,その人限りのことであって,対外的に少額案件無償対応していますと謳っている弁護士を見聞きしたことはありません。

そこに高尚な大義名分や正義・悪,強者・弱者などはなく,営利目的で営業活動を行い,依頼を受けた仕事を遂行する,至ってシンプルな構図であり,それが弁護士の仕事です。

先に記載した弱者救済などを理念とする弁護士が,上記の事案を断るまたは無償対応を積極的にやるのかというと,有償で,どの事案も引き受けるでしょう。

弁護士への相談について,高尚な理由を元にした事案は極めて稀であり,上記のような一般的にありふれた事案を受けなければ,事務所の運営や,従業員に十分な給与を支払うことが困難となります。

また,弁護士は行政の助成金などで運営しておらず,その多くが普通の個人事業主であり,相談者・依頼人から受領した弁護士費用で生計を立てています。

弁護士法人として組織化している事務所もありますが,その場合は,弁護士法人(会社)に弁護士費用が入り,そこから役員報酬や給料が支払われる形で,一般的な民間企業と同じなのです。

視点を変えてみると,医師の場合,医師法により原則診療の拒絶はできないとされていますが,弁護士は特に制約がありませんので,極端な言い方をすると,儲かる仕事,やりたい仕事だけを選り好みしても問題ない職業なのです。

これらから分かるように,弁護士にしかできないことは沢山ありますし,弁護士は努力を重ねた凄い人でありますが,あくまでも一職業であり,勝手なイメージで,勝手に期待してしまうと,勝手にがっかりすることになる可能性があることに注意が必要です。

誤解のないように付記しますが,弁護士を貶めているものではありません。

基本的に,弁護士は世間一般にありふれた職業と何ら変わりないもので,誰かのために仕事をしてお金をもらう。そこにボランティアの精神や,必要以上の期待を持たれても弁護士は困るという話です。

弁護士が嫌がる相談者・依頼人


今や,大抵の情報ならインターネットで調べることができる時代です。その情報がどんなケースにも当てはまるのであればいいのですが,法的なトラブルの場合は,類似のケースはあったとしても,全く同じケースはありません。

法的トラブルは,ほんの少し状況が違うだけで,結果が180度変わることもあります。

例えば,離婚問題で親権を争った場合,夫婦の収入,子供の数・性別・年齢,双方の実家の家族構成などの条件が同じ事案があったとしても,100%同じ結果になるのかといえばそんなことはありません。

そんな中,インターネットで拾える薄っぺらな,中途半端な知識や情報を信じて疑わず,弁護士のアドバイスを聞き入れない相談者・依頼人は,多くの弁護士が嫌がります。

先の親権の例でいえば,総合的にみて,弁護士が男性側に親権がいく可能性も否定できないとアドバイスしたのに対し,「子どもが●歳以下だと必ず母方が親権取れると書いてあった。」など言われても弁護士は困ります。

また,お金を借りている人が,「先生,これ時効だから返さなくていいよね?」と相談に来た場合,時効のスタート時期(起算点),貸し借りの状況,貸主とのやり取りの経緯,(知らないうちに)裁判を起こされていないかなど,総合的な情報から時効を迎えているのか判断する必要がありますし,時効期間経過後に「時効の援用」をする必要もある中,「インターネットで調べたら,●年返してなければ時効って書いてあった。」など言われても弁護士は困ります。

弁護士は何でもできる,依頼人のために何でもしなければいけないとの思い込みから,無理難題を言わないようにしましょう。

以下の表は,他に考えられるものの例ですが,このような相談者・依頼人は,多くの弁護士が嫌な顔をします。

類型
具体例
法律・裁判例・弁護士倫理上認められない範囲についての要求。
お金を借りている本人が支払えないなら,お金を持っている親に請求してほしい(支払う義務がない者に対しての請求)。

交際していた相手と別れたから,これまでかかったデート代やプレゼントを回収してほしい(贈与であり,法的に返還義務がない)。
知人や自身の過去において経験した類似事案を例に,同様の結果が出るものと思っている。
交通事故で,事故態様から過失が存在するとアドバイスするも,無過失を取った経験があり,似た事故だから無過失が取れるはず,取れないのは弁護士の腕の問題だと反発する。
目的が復讐行為になっている。
ダメージを負わせたいなど,弁護士を使ったただの嫌がらせ。

弁護士が受けたがらない事案


相談者・依頼人に関係なく,弁護士が受けたがらない事案もあります。

医療過誤など専門性の高い事案,社会性の高い事案,いわゆる儲からない事案などです。

以下の表に例を紹介しますが,このような事案は,多くの弁護士が敬遠したがります。

類型
理由
専門性の高い事案
受けたくないというより,慣れていない者が下手に手を出すと依頼人に損害を与えてしまう可能性があるため,経験のある弁護士に任せる方が最大限の利益を確保できると判断する。

この場合,依頼人のことを本気で考えてのことなので,ありのまま説明する弁護士も多い。
社会性の高い事案
マスコミで取り上げられるなどすると,マスコミ対応が必要になる(公表していないのに,事務所に電話がかかってくる)ことや,その事案の弁護士情報が世間一般に知れることで,事案によっては誹謗中傷を受ける可能性がある。
儲からない事案
少額事案(着手金も少ないが,それ以上に報酬金が見込めない),回収見込みが薄い債権回収(法律上,お金がない人から回収することが困難),物損事故(報酬金が数百円~数千円程度になることも多い)など。

弁護士が喜ぶ相談者・依頼人や受任したいなと思う事案


紙でも言葉でもいいので内容を時系列にまとめてきてくれる,話が脱線しない,話をきちんと聞いてくれる,分からないことを質問してくれる,電話やメールなどのレスポンスが早いなどの相談者・依頼人は嬉しいというか,本当に助かります。

勿論,要点整理や話が苦手な方はいますので,そこから上手に話を聴き取るのは弁護士の腕の見せ所ですが,それでも何を相談したいのか分からない,話が必要以上に長い,音信不通になりがち,分かったフリをするなどの行為は,弁護士も困りますし,結果,相談者・依頼人が一番困ることになります。

また,短期間で終結が見込める事案や,いわゆる儲かる事案は喜びます。

割のいい仕事をやっているからこそ,割に合わない仕事もやろうという気になるものです。

私の願望でもありますが,弁護士の方々には,ぜひ,割のいい仕事を1件受けた際には,無報酬でも構わないくらいの気持ちで,割に合わない仕事を1件受けていただきたいなと思います。

まとめ


まず,弁護士が仕事を行う上で大前提としているのは,法的な権利と義務が生じているかどうかです。

権利のない者からの依頼は受けたがらないのではなく,そもそも受けられないですし,義務のない者に対する要求は,強要,脅迫といった行為にも準じる行為ですのでやりません。

また,弁護士も,自身やその家族,雇っている従業員などのために,皆さんと同じように仕事をして生活しています。

弁護士は儲かっているイメージをお持ちの方が多いですが,年収400万円前後なんて珍しくはありませんし,年収1000万円だとしても,時給換算したら最低賃金なんてこともザラですし,仕事に対する責任の重さを考えると,高額貰ってもやりたくない仕事はいくらでも舞い込んできます。

偏見の目で見ることなく,弁護士と上手につき合うことが,結果自身にとっていい結果をもたらすことを忘れないでください。

最後に,弁護士の方針に色々口を出す行為は,医師が患者の体を診て診断していることに異を唱えることと同じ行為です。

にわか知識は,結果的に自身に不利益をもたらしますので,異を唱えるのではなく,疑問として話し合うことを意識するといいですよ。

弁護士も人間です。態度の悪い人にはムッときますし,知ったかぶりされると溜息が出ますし,暴言を吐かれれば人並みに傷付きます。

自身のために活動する人と手を取り合ったのですから,信頼関係を築いて,目的達成まで一緒に歩めるといいですね。